博士論文の一節をブログ用に書き直したものを公開します。誤った記述・認識などがあればご教示いただけましたら幸いです。
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混合研究法は,近年社会科学を中心に注目を集めている研究手法の一つで,下記のように定義される。
An approach to research in the social, behavioral, and health sciences in which the investigator gathers both quantitative (close-ended) and qualitative (open-ended) data, integrates the two, and then draws interpretations based on the combined strengths of both sets of data to understand research problems. (Creswell, 2014, p. 2)
簡潔に定義すると,量的なデータと質的なデータを組み合わせて行う研究法の一つであり,近年では応用言語学でも注目を集めつつある。例えば,Megnan (2006)の調査によると,Modern Language Journalにおける1996-2005年の論文の中では,10年間で11本(6%)しか報告されていなかったのに対し,Tojo and Takagi (2017)によるTesol Quarterly,Applied Linguistics,Modern Language Journalの2006-2015年の論文の調査によると,3誌合計で100本(13%)の研究においてmixed methodsが利用されている。
同様に,Hashemi and Babaii (2013)は1995年から2008年に刊行されたApplied Linguistics,English for Specific Purposes,Language Learning,language Testing,Modern Language Journal,Tesol Quarterly,Language Teaching Researchの論文の中で205本が混合研究法のデザインで行われているという報告をしている。またRiazi and Candln (2014)では,2002年から2012年に国際誌で刊行された論文を調査し,40本の論文に焦点を当てた調査を行っている。
国内の動向に目を向けると,外国語教育系学会で出版されている論文誌の調査がいくつか存在する(Mizumoto, Urano, & Maeda, 2014; Stapleton & Collett, 2010; 寺沢, 2010; 山本, 2013)。
Mizumoto, Urano, and Maeda (2014)では全国英語教育学会が刊行しているAnnual Review of English Language Educationの24年分の出版された論文を調査した。その結果,ここ12年で混合研究法が増えていることがデータより読み取れる。また,Stapleton and Collett (2010)は全国語学教育学会が刊行しているJALT Journalにおけるここ30年分の論文を調査し,同様に混合研究法の論文が増加していることを報告している。
また山本(2013)では,外国語教育メディア学会が発行しているLanguage Education & Technologyの2003年から2013年の論文を調査し,質的研究と混合研究法が100本の論文の内,25パーセントを占めていると報告している。それに加えて,そのうちのほとんどがトライアンギュレーションモデルと呼ばれるデザインで行われているという事を報告している。
関連して,寺沢(2010)は,大学英語教育学会の学会誌JACET Journalの1970年から2004年の方法論及びトピックを調査している。その結果,質的な実証研究が少ないことを報告している。また「計量的な実証研究が非常に多く,そうしたタイプの研究が学術的 prestige を得やすく,そのような知的傾向が前提になりつつあるということ」や,「学習者の内的なメカニズムに焦点化した実証研究が非常に多い」ことを報告している。*1
Creswell (2014, p. 24)は,下記のように述べている。
Graduate students enter my mixed methods course after they have completed classes on statistics and quantitative designs (e.g., experimental designs) and one or two qualitative research classes.
Creswell先生の研究室の学生は,統計や量的研究のコースを複数受講し,1-2個の質的研究のコースを受講してから,混合研究法のコースを受講するらしい。現行の日本の学部・大学院における英語教育のカリキュラムを鑑みると,いずれも難しそうな印象を受けた。2015年に日本混合研究法学会(http://www.jsmmr.org/home)も発足したので,その理念や方法論の普及が期待される。
参考文献
Creswell, J. W. (2014). A concise introduction to mixed methods research. Sage Publications.
Hashemi, M. R., & Babaii, E. (2013). Mixed methods research: Toward new research designs in applied linguistics. The Modern Language Journal, 97(4), 828-852.
Magnan, S. S. (2006). From the editor: The MLJ turns 90 in a digital age. The Modern Language Journal, 90(1), 1-5.
Mizumoto, A., Urano, K., & Maeda, H. (2014). A systematic review of published articles in ARELE 1–24: Focusing on their themes, methods, and outcomes. ARELE (Annual Review of English Language Education in Japan). 25, 33–48.
Riazi, A. M., & Candlin, C. N. (2014). Mixed-methods research in language teaching and learning: Opportunities, issues and challenges. Language Teaching, 47(2), 135-173.
Stapleton, P., &Collett, P. (2010). Perspectives: JALT Journal Turns 30: A Retrospective Look at the First Three Decades. JALT Journal. 32(1), 75-90.
Tojo, H., & Takagi, A. (2017). Trends in Qualitative Research in Three Major Language Teaching and Learning Journals, 2006–2015. International Journal of English Language Teaching, 4(1), 37-47.
寺沢拓敬(2010, November 2). 教育研究としての『外国語教育学』 [Web log post]. Retrieved from http://d.hatena.ne.jp/TerasawaT/20101102
山本長紀(2013)「方法論的トライアンギュレーションを考える:Language Education & Technology掲載論文における量的・質的データ分析の混合」外国語教育メディア学会関西支部メソドロジー研究部会2013年度第3回研究会発表資料.